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2007/10/09 (Tue) *四季恋歌* 01

「春の名前、季節の春って書くだろ。俺は夏と秋と冬って漢字を持ってる。2人合わせると四季になるんだぜ。春が来ないと、夏も秋も冬も来ない。だから、春は必要なんだよ」

そう言って、夏秋は僕の両手を優しく包んでくれた。
僕はあの時、初めて祖母以外の人間が与えてくれた温もりに、涙を流した。
夏秋の手はひんやりと冷たかったが、僕の不良品の心臓はぽかぽかと暖かく、穏やかに鼓動を刻んでいた。
その年の冬に、夏秋は僕を置いて一人旅立ってしまった。
春が来ないと、夏も秋も冬も来ないと言った夏秋。
じゃあ、夏も秋も冬も来ない春は、どうすればいいのだろうか。
二年経っても、僕は未だに答えを見つけられない。
他の季節に置いていかれた春。
僕のこころは冷たいまま、年月だけが過ぎて行く。
そんな僕を暖かくさせてくれたのは、海の画集だった。
力強く、優しいタッチのその絵に、僕は何度救われただろう。
こんなにも生き生きと生命力に溢れた絵を見たのは初めてだった。
気が付いたら、便箋を引っ張り出し文字を綴っていた。僕は海のように絵が描けないから、拙い文章に精一杯の想いを込める。
一度も返事はないけれど、夏秋への日記のように、海への手紙は習慣になっていた。


それから一年後の春。
僕の心臓は、鼓動の音色を変えた。

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2007/10/09 (Tue) *四季恋歌* 02

4月。
始まりの月。
蒼い空にさくら色の花びらが舞い、優しい風が僕の頬を撫でる。
例年のこの時期なら桜は青々とした葉を付けているのだが、今年は冬らしい冬だったので、どの木も花をいっぱい蓄えていた。
風に揺られて花びらが舞うその姿は、まるで空気が桜色になったような錯覚にさせられる。
「…きれい。まるで海の絵みたいだ」
花びらのシャワーに包まれて、僕は画集の中の絵と今見ている風景を重ねた。
澄んだ蒼の中に一面の花びら。
あの吸い込まれそうな程のインパクトは、やはり海にしか描けないな。
本物より絵が良いって言ったら、そんなハズはないと笑われるだろうか。
「でも、僕はそれくらい、感動したんだ」

結城 海。
僕に春をくれた人。

今日は海の個展がある。
楽しみで楽しみで、中々眠りにつけなくて、小さな子供のようにずっと興奮していた。
画集のプリントじゃなくて、独特のにおいと厚みのある油絵の具が彩る海の絵を間近で見られるんだ。そう思ったら、興奮せずにはいられない。
開場までのカウントダウン。

60

40

20

10



僕はガラス貼りの大きな扉に手をかけた。






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2007/10/10 (Wed) *四季恋歌* 03

扉を開けると、すぐ横にいる受付の女性からチケットを購入し、僕は待ちきれず足早に奥へと向かった。
仕切りのない開放的な空間に、海の絵が並べられている。
初期のものから最近のものまで。画集に載っていたものもあった。
すごい。大きい。
画集に収まるように小さく縮小されたものとは明らかに違う迫力。
中心に置かれているのは、見た事もないような巨大なキャンパスの空に舞う、桜。
さっき見てきた桜が霞んでしまう。
「その絵、気に入った?」
どれくらいその場にいただろうか、桜に魅入られている僕に、優しい音色の声が届いた。
振り向くと、
「……海」
忘れもしない。
雑誌のインタビュー記事で一度だけ見た事のある、海だという男性がそこにいた。
なんで。どうして。
海、なの?
男性は僕の横に立ち、絵を見上げる。
「俺もこれが一番好きなんだ」
知ってる。
インタビューでもそう答えていたから。
好きな季節は春で、好きな花は桜。
「春って、空気まで桜色に見えない?」
男性は、海は、僕の顔を見て言った。
海。
本物の海。
「海には、春ってこう見えるの?」
「そうだよ。だから描いた。俺は見えるものしか描けないからね。だから抽象画は専門外なんだ」
「僕も、この絵が一番…好き」
この気持ちはなんだろう。
海が横にいる。僕と同じものを見てる。感じてる。
そう思ったら、心臓が壊れてしまいそう。
僕の告白に、海は嬉しそうに目を細めた。
「あの、どうして僕に、声を?」
「チケット見てみて」
僕は素直に鞄の中からチケットを探す。
「あ…」
「俺の個展へようこそ。春一番くん」
あの桜の絵がプリントされたチケットには、大きな手書きの文字で「春一番」と書かれていた。
「頭にたくさん桜を付けて、開場前から待っててくれたんだね」
どうしよう。
心臓が言うことを聞いてくれない。
そんなに早く動いたら、不良品の心臓がすぐにショートしてしまう。
「…苦しい」
「え?」
苦しくて苦しくて、とっさに左胸を押さえた僕を、海は慌てて両手で包みこんだ。
「どうした。苦しいのか?」
苦しいよ。
海とこんなふうに話ができるなんて、こんな夢みたいなことが…。
薄れる意識の中で、海の声だけが僕の鼓膜を響かせていた。

海。
僕にとっての春一番は、海なんだよ。

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2007/11/01 (Thu) *四季恋歌* 04

頬に触れる冷たい感触は、なんだかとても懐かしく感じた。
僕が寝ていると夏秋はいつも起こしにやってきて、ひんやりとした手で頬をくすぐっていたから。
「春、もう朝だよ」
そう。
いつもそうやって、優しい声音で僕を目覚めさせてくれる。
「くすぐったいよ。夏秋」
僕はそれが嬉しくて、わざと寝た振りをしていた。
夏秋はきっと分かっていたと思う。
「寝坊だぞ。今日は散歩できるんだろ?」
「うん。もう大丈夫」
僕も夏秋も心臓が不良品だから無理は出来ない。ひとつ年上の夏秋がいつもそう言っていた。
「ね、また書いた?」
「んー?ああ」
「出来たら読んでもいいんだよね?」
「ああ」
夏秋は詩を書いている。
僕にはよく分からないけど、思った事とか感じたことを文字で表現するらしい。
前に日記とは違うの?と聞いたら、お子ちゃまには分からないんだとデコピンされてしまった。
夏秋だって僕とひとつしか違わないんだからお子ちゃまなのに。
「出来たら一番最初に読ませてやるよ」
「約束!」
僕は右手の小指を差し出す。
約束のおまじない。
「約束」
夏秋の小指が絡まり、おまじないは交わされた。
今になって思えば、この時の夏秋の曖昧な笑顔は、果たされることのない約束を分かっていたんだと思う。
僕の手元にある夏秋の詩集。
まだ半分しか埋まっていないページ。
何度も何度も読み返したけど、それは一年前の冬で終わっていた。
春が来るまえに、夏秋は星になったからだ。

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