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2007/10/10 (Wed) *四季恋歌* 03

扉を開けると、すぐ横にいる受付の女性からチケットを購入し、僕は待ちきれず足早に奥へと向かった。
仕切りのない開放的な空間に、海の絵が並べられている。
初期のものから最近のものまで。画集に載っていたものもあった。
すごい。大きい。
画集に収まるように小さく縮小されたものとは明らかに違う迫力。
中心に置かれているのは、見た事もないような巨大なキャンパスの空に舞う、桜。
さっき見てきた桜が霞んでしまう。
「その絵、気に入った?」
どれくらいその場にいただろうか、桜に魅入られている僕に、優しい音色の声が届いた。
振り向くと、
「……海」
忘れもしない。
雑誌のインタビュー記事で一度だけ見た事のある、海だという男性がそこにいた。
なんで。どうして。
海、なの?
男性は僕の横に立ち、絵を見上げる。
「俺もこれが一番好きなんだ」
知ってる。
インタビューでもそう答えていたから。
好きな季節は春で、好きな花は桜。
「春って、空気まで桜色に見えない?」
男性は、海は、僕の顔を見て言った。
海。
本物の海。
「海には、春ってこう見えるの?」
「そうだよ。だから描いた。俺は見えるものしか描けないからね。だから抽象画は専門外なんだ」
「僕も、この絵が一番…好き」
この気持ちはなんだろう。
海が横にいる。僕と同じものを見てる。感じてる。
そう思ったら、心臓が壊れてしまいそう。
僕の告白に、海は嬉しそうに目を細めた。
「あの、どうして僕に、声を?」
「チケット見てみて」
僕は素直に鞄の中からチケットを探す。
「あ…」
「俺の個展へようこそ。春一番くん」
あの桜の絵がプリントされたチケットには、大きな手書きの文字で「春一番」と書かれていた。
「頭にたくさん桜を付けて、開場前から待っててくれたんだね」
どうしよう。
心臓が言うことを聞いてくれない。
そんなに早く動いたら、不良品の心臓がすぐにショートしてしまう。
「…苦しい」
「え?」
苦しくて苦しくて、とっさに左胸を押さえた僕を、海は慌てて両手で包みこんだ。
「どうした。苦しいのか?」
苦しいよ。
海とこんなふうに話ができるなんて、こんな夢みたいなことが…。
薄れる意識の中で、海の声だけが僕の鼓膜を響かせていた。

海。
僕にとっての春一番は、海なんだよ。

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はじめまして 

読んでいただけて嬉しいです。
この話は切なさがテーマなのであえてそういう風に書いてみました。
春の周りの環境とか海の事、夏秋の事など、これから色々と試練があるのですが、どうぞ見守ってやって下さい。

2007/11/01 14:04 | あんの [ 編集 ]


 

はじめまして。こんにちは~~。
最初の「注意書き」を読んだら、もう、悲しい結末の予感が頭から離れません・・・・。
そのせいか、すべての文字から悲しみが滴っているみたいで切ないです。(影響されすぎ?)
また来ます!

2007/10/25 17:47 | おふく [ 編集 ]


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